株主手帳連載:教育のデジタル化「エドテック」
月刊誌「株主手帳」にアイ・パートナーズフィナンシャル自由が丘オフィス代表である原田茂行が毎月掲載している連載をごちらでお読みいただけます。 ぜひ今後の投資の参考に、ご一読ください!
今月のテーマ:教育のデジタル化(エドテック)
コロナをきっかけに、世界に後れを取る日本のDX(デジタルトランスフォーメーション)が露わに。政府はデジタル庁を設置しDXを強力に推進していく計画です。教育現場も大きく変わろうとしています。
エドテックで教育現場に革新を!
フィンテックやアグリテックなどICT技術で価値を創出する「X-Tech」。教育業界では、X-Techの1つである「EdTech(エドテック)」に注目が集まっています。教育に最新テクノロジーを取り入れてイノベーションを巻き起こすエドテックが教育現場で進んでいます。
文科省は19年、教育現場のDXを意味する「GIGAスクール構想」を打ち出し、エドテックの推進へ向けた学校のデジタルシフトを加速させました。GIGAスクール構想では、ICTを基盤とした先端技術の活用を必須とし、一人ひとりの多様性を尊重し、個別最適化された教育の実現を目指すとしています。
20年3月時点での学習用端末の導入台数は生徒4~5人に1台程度と、学校のICT環境の整備は遅れていましたが、20年4月の「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」で2292億円が予算計上され、今年3月に全自治体の約98%にタブレット端末などが支給されました。まさに「GIGAスクール元年」といえる、1人1台端末で学習するという教育がスタートしたのです。
デジタル化で教師の業務効率化が進む
学校の先生たちの過酷な勤務実態がメディアでも取り上げられますが、エドテックの活用により教員の働き方改革にも寄与することが考えられます。保護者への対応や生活指導、部活動などの業務で長時間労働が当たり前となっている状況を、テクノロジーの利用で教員の負担の軽減が可能になるからです。
一方、都市部と地方との教育格差や、経済格差による「受けられる教育の差」などの課題が、エドテックの導入により解決していくと期待されます。また、タブレットなどでドリルを行うことで教員が瞬時に一人ひとりの学習状況を把握することができ、生徒が自分のペースで勉強できる個別最適化した学習が可能となります。
野村総合研究所は、エドテックの市場規模が23年には約3000億円に達するとし、その後も順調に伸びていくものと予測します
教育デジタル化エドテック関連銘柄
こうしたなか、各企業も活発に動き出しました。学校向けのICT利活用を支援するチエル(3933)は、教員向けのサイトの運営をスタート。ソフトウェアの提供だけにとどまらず、スムーズに端末を使いこなせるように利用者へのサポートまで行います。
一方、「教育に変革、子どもたちに生きる力を」を企業理念と掲げている、すららネット(3998)は、対話式ICT教材「すらら」を約2200の学校や塾へ提供しています。生徒一人ひとりの理解度に合わせて学習を進めることができるのが特徴です。
他方、公立小中高校向けに校務支援システムを提供するシステムディ(3804)は、児童生徒に関する活動状況を保護者へ直接知らせる新サービスの提供を開始しました。印刷物の削減により教職員の負担軽減に繋がるとともに、生徒の指導・活動記録をシームレスに保護者へ知らせることで子供の見守り効果にも役立ちます。
その他エドテックの関連銘柄は、クシム(2345)、オプティム(3694)、ジャストシステム(4846)、学研ホールディングス(9470)、ベネッセホールディングス(9783)。
子供たち将来のためにも教育デジタル化は欠かせない
日本では教育分野のデジタルシフトが大きく遅れ、欧米などを中心としたエドテック先進国には後塵を拝してきました。
IT技術者の人材不足に悩む経済界では、子供たちへのIT教育の現状に危機感を強くしており、IT大手などを中心とする新経済連盟や経団連は、GIGAスクール構想を推し進める政府に対して、小中学校だけでなく高校でも1人1台学習用端末の導入など様々な提言をしています。
デジタル庁の創設など政府がDXの推進にようやく本腰を入れ始めたことで今後、エドテックが急速に拡大することが予測されます。
学校のDXが大きく前進し、エドテックが進化を続け、子供たちの誰もが平等で格差のない教育を受けることができる社会の実現に期待したいと思います。